食餌植物:ブドウ、ノブドウ(ブドウ科)
国内分布:北海道・本州・四国・九州・対馬
次種キタスカシバ Sesia yezoensis に並ぶ日本産スカシバガの最大種。飛翔時の見え方や羽音はコガタスズメバチに酷似している。得難い珍種であるが、栽培ブドウの大害虫としても知られる(少数個体で甚大な被害を及ぼし、かつ防除が困難であるため)。配偶行動時間帯はおよそ16-17時。
秋になると終齢幼虫は寄主木から脱出し、土中で土繭を作る。土繭中で幼虫態越冬した後、翌夏に蛹化・羽化する。年1化。
食餌植物:ヤマナラシ類 Populus spp.、ヤナギ類 Salix spp.(ヤナギ科)
国内分布:北海道・本州
クビアカスカシバ Glossosphecia romanovi に並ぶ日本産スカシバガの最大種。北方系・山地性の種として知られ、青森県では少なくない。寄主木の樹皮下に繭を作って蛹化する。
成虫の個体変異は多様で、特に腹部第4・5節は黒色のものから、褐色、黄色の個体まで見られる。
食餌植物:クリ(ブナ科)
国内分布:本州(東北地方では未記録)
雌雄異型の大型スカシバガ。オスはクロスズメバチ類、メスはキイロスズメバチに擬態している。稀な種で、栽培クリ以外からは得られていない。同属のコシアカスカシバ Scasiba scribai もクリを寄主とするが、コシアカスカシバが成木の主幹部を好んで食害するのに対して、本種は細めの枝や若木を好む。配偶行動が行われるのは夕方。
長い間キタスカシバと同属(Sesia属)として扱われてきたが、最近ではコシアカスカシバ、オキナワスカシバ S. okinawana と共に、新設されたScasiba属に移されている。
食餌植物:シラカシをはじめとしたQuercus属・クリ(ブナ科)
国内分布:本州(宮城県以南)・九州
市街地でも見られる。大木(の主幹部)を好む傾向があり、1本の木で数十個体が発生することもある。
食餌植物:カラスウリ・キカラスウリ(ウリ科)
国内分布:本州・四国・九州・対馬・南西諸島(沖縄島・奄美大島)
オオモモブトスカシバ M. sangaica と長い間混同されていたが、1987年に分離された。2種は同所的に見られる地域が多いものの、本種の方が北方系(東北地方では本種のみ確認されている)。
オオモモブトスカシバとの区別点としては、前翅中室端紋の形状や、中脚腿節の毛色(本種は黒、オオモモブトスカシバでは明るい茶色)などが挙げられている。そのほか、中脚脛節・フ節が白黒2色から成る(オオモモブトスカシバではほぼ黒色)ことでも容易に区別できる。
オオモモブトスカシバも本種と同様にカラスウリ類を寄主とするが、オオモモブトスカシバが太い株の基部に(時に群れて)侵入するのに対し、本種は細めの株の茎部に1個体ずつ虫エイを形成する。幼虫は秋になると地面に下り土繭を作る。土繭中で幼虫態越冬した後、翌夏に蛹化・羽化する。年1化。
交尾。繋がったままでオスがホバリングすることもしばしば。
羽化直後のメス
メスの羽化
メスの羽化
ノブドウで吸蜜するメス
キカラスウリに作られた虫エイ。中には終齢幼虫が入っている。
食餌植物:カラスウリ・キカラスウリ(ウリ科)
本州・四国・九州・対馬・南西諸島(屋久島・石垣島)
シタキモモブトスカシバ M. inoueiに似るが、前翅中室端紋の形状などで区別できる(詳細はシタキモモブトスカシバの項を参照)。また、シタキモモブトスカシバと比べて体色・体格に性差が大きい。本種は南方系で、東北地方における確実な記録はない。宮城県に古い記録がいくつかあるものの、いずれもシタキモモブトスカシバが記載される以前のものであり、宮城県蛾類目録(柳田ら, 2009)ではシタキモモブトスカシバに訂正されている。2種の混生地域では概ね本種の方が多く、シタキモモブトスカシバはやや珍しい。
幼虫はカラスウリ類の蔓の根元近くに侵入し、時に群れて巨大な虫エイを形成する。秋になると地面に下り、土繭を作る。土繭中で幼虫態越冬した後、翌夏に蛹化・羽化する。年1化。
本州〜屋久島の個体群は ssp. nipponica Arita & Yata, 1987 とされ、石垣島と対馬の個体群は中国上海を基産地とする名義タイプ亜種 ssp. sangaica Moore, 1872 に分類されている。
食餌植物:本亜種は不明。タイワンモモブトスカシバ ssp. formosana ではケカラスウリ(ウリ科)
国内分布:九州(宮崎県・鹿児島県)
1997年に M. nagaii Arita & Gorbunov として新種記載された。近年ではタイワンモモブトスカシバ M. formosana の1亜種として扱われる(Püehringer & Kallies, 2004)。なお、ssp. formosana は台湾と奄美大島に分布している。
1. Pühringer, F. & Kallies, A, 2004. Provisional checklist of the Sesiidae of the world (Lepidoptera: Ditrysia). Mitteilungen der Entomologischen Arbeitsgemeinschaft Salzkammergut 4: 1-85.
食餌植物:アマチャヅル(ウリ科)
国内分布:北海道・本州・四国・九州・対馬・南西諸島(奄美大島・石垣島)
食餌植物:エビヅル・ノブドウ(ブドウ科)
国内分布:本州(青森県・岩手県)
2014年、岸田氏との共著で新種記載した。ブドウスカシバ N. regalis とムラサキスカシバ P. purpurea に酷似するが、(1)雄交尾器の形態が明確に異なる(ブドウスカシバとムラサキスカシバは酷似する)ほか、(2)後脚脛節内側の色(ブドウスカシバ・ムラサキスカシバでは橙黄色、本種では灰色がかった黄白色)、(3)頭頂部の毛色(ブドウスカシバでは黄色、ムラサキスカシバでは黒色、本種では黒色と黄色の毛が混在)、(4)前翅の色調(ブドウスカシバでは赤褐色、ムラサキスカシバでは黒紫色、本種はその中間的な色)などで区別できる。また、本種は他2種よりやや小型。
東北地方北部でのみ確認されており、ブドウスカシバ・ムラサキスカシバと分布域の重複は見られない。なお、北海道小樽市産の標本(オス1個体)をもとに yezonica という種が記載されている(Matsumura, 1931)が、当該タイプ標本はブドウスカシバ N. regalis と区別できず後にシノニムとされた(Yano, 1961)。本種と yezonica とでは交尾器の形態が大きく異なっているものの、北海道産ブドウスカシバの扱いは検討を要する。
成虫出現期は初夏。幼虫はブドウ類の蔓内に穿孔して虫エイを形成する。幼虫態越冬した後、春になると羽脱孔を開け虫エイ内で蛹化する。年1化。配偶行動時間帯はおよそ15-16時。
1. Kishida, Y., Kudo, T., & Kudo, S., 2014. A new species of Nokona Matsumura from Japan. Tinea 23(1): 4-9.
2. Matsumura, S., 1931. A list and new species of Aegeridae [sic] from Japan. Insecta Mats. 6: 4-12, pl. 1.
3. Yano, K., 1961. Studies on six species of the genera Paranthrene Hübner and Conopia Hübner from Japan (Lepidoptera, Aegeriidae). J. Fac. Agric., Kyusyu Univ. 11(3): 209-236, pls. 11-21.
羽化直後のメス
探雌飛翔(午後3時43分)
エビヅルに形成された虫エイ
羽脱孔から蛹が這い出し羽化する
翅を伸ばす羽化直後のオス
食餌植物:エビヅル・ブドウ・ヤマブドウ・シラガブドウ・ノブドウ(ブドウ科)
国内分布:北海道・本州・四国・九州
渓流釣りの餌に使われる「ブドウ虫」は本種の幼虫(近年、養殖ブドウ虫として販売されているものはハチノスツヅリガの幼虫)。普通種ではない。
年1化で初夏に出現する。稀に晩夏〜秋にも成虫が得られるが、2化目なのかどうかは不明。本州では宮城県以南で生息を確認している。
ミチノクスカシバ・ムラサキスカシバに酷似するが、この3種は頭頂部と前翅の色調で区別できる(詳細はミチノクスカシバの項を参照)。
食餌植物:ノブドウ・エビヅル・ブドウ(ブドウ科)
国内分布:本州・四国・九州・対馬
ブドウスカシバとしばしば同所的に見られるが、本種の方が少ない。成虫出現期は初夏。年1化。
ミチノクスカシバ・ブドウスカシバに酷似するが、この3種は頭頂部と前翅の色調で区別できる(詳細はミチノクスカシバの項を参照)。
食餌植物:ヘクソカズラ(アカネ科)
国内分布:本州(山形・宮城県以南)・四国・九州・対馬
最も見つけやすいスカシバガのひとつ。人家周辺のヘクソカズラでしばしば発生する。
年1化で成虫出現期は初夏。しかしながら晩夏〜秋にもわずかに発生が確認される(部分的に2化しているかどうかは不明)。対馬では黒化型 f. tsushima が高頻度に出現する。
食餌植物:マタタビ・ミヤママタタビ・サルナシ・キウイ(マタタビ科)
国内分布:北海道・本州・四国・九州
Nokona属では飛び抜けて大型。稀な種だが、地域によっては栽培キウイの大害虫として報告されている。
スカシバガ類としては例外的に卵態で越冬する。年1化。配偶行動時間帯は午後2-4時。
食餌植物:ソメイヨシノ・ヤマザクラ・モモ・ウメ・スモモ・アンズなど(バラ科)
国内分布:北海道・本州・四国・九州・対馬
最も見つけやすいスカシバガのひとつ。コスカシバ類としては大型。ウメなどの害虫として知られ、市街地のサクラでもよく発生している。出現期が長く、成虫は初夏から秋まで見られるが、年に2〜3回の発生ピークがある。日没直前の薄暗い時間帯に配偶行動を行う。
食餌植物:シラカンバ(カバノキ科)
国内分布:北海道・本州
コスカシバ類としては大型で、丸みを帯びた大きな中室端紋が特徴。メスでは触角の先半分が黄色くなる。極めて珍しく、記録は限られる。
ノリウツギでの吸蜜
食餌植物:ヤナギ類 Salix spp.(ヤナギ科)、カワラハンノキ・ケヤマハンノキ(カバノキ科)
国内分布:北海道・本州
珍種揃いのスカシバガ類としては比較的得易い種。配偶行動時間帯はおよそ14-16時。腹部の黄色帯や脚の色彩などはキオビコスカシバに似るが、この2種は前翅の斑紋で容易に区別できる。
探雌飛翔(午後4時28分)
食餌植物:ツルグミ・ナツグミ・アキグミ(グミ科)
国内分布:本州・九州
稀な種。腹部の黄色帯や脚の色彩などはヒトスジコスカシバに似るが、この2種は前翅の斑紋で容易に区別できる。
食餌植物:カキノキ (カキノキ科)・ヤナギ類(ヤナギ科)・クリ・カシワなど(ブナ科)・クマイチゴ・サクラなど(バラ科)・フジ(マメ科)・クマシデ・カワラハンノキ(カバノキ科)
国内分布:北海道・本州・四国・九州
日本産コスカシバ類では最も小型。カキの害虫として知られる。外来種のスグリコスカシバ S. tipuliformis とよく似ており、同定には要注意。
全国的には低地から見られる普通種とされる。しかし、青森県では比較的稀な種で、現在のところ山深いブナ帯〜ダケカンバ帯からのみ記録されている。
食餌植物:クロフサスグリ・フサスグリ(スグリ科)
国内分布:北海道、本州
ヨーロッパ原産の外来種。カシス(クロフサスグリ)の世界的害虫で、日本では2008年に初めて発見された。
成虫は初夏にのみ出現し、年1化。幼虫はスグリ類の枝に穿孔する。幼虫態越冬。